労使トラブルQ&A

労使トラブルQ&A

採用時の労働契約は口頭で行うことはできますか。

労働基準法第15条の規定により、従業員に労働条件を伝えるには、①書面、②ファックス、③電子メールなど、のいずれかの方法によらなければならず、口頭での通知では足りません。(②,③は従業員が希望した場合で書面を作成できるものに限られます。ただし、口頭での契約であっても契約の効力自体は有効です。)明示が必要な事項は、①労働契約の期間(無期労働契約か、有期労働契約か),②就業場所(雇入れ直後の配置場所、変更の範囲),③職務内容(雇入れ直後の業務内容、変更の範囲),④給与の決定、計算・支払の方法、締切、支払の時期について,⑤始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇(年休を含む),⑥所定労働時間を超える労働の有無,⑦労働者を2組以上に分けて就業させる場合は、その就業時転換について,⑧退職の事由と手続きについて,⑨有期労働契約の場合(a 更新の有無,b 更新の判断基準,c 更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無とその内容,d 無期転換申込機会、無期転換後の労働条件)、また、パート、アルバイトの場合は、⑩昇給の有無,⑪退職手当の有無,⑫賞与の有無,⑬相談窓口です。このほか、労使の取り決めがある場合、退職金や賞与、安全衛生、職業訓練などについても明示が必要です。

試用期間中であれば自由に解雇できますか?
試用期間中であっても「解雇自由」ではありません。通常の解雇と同様に合理的な理由が必要です。たとえ能力不足や勤務態度の不良であっても、事前に指導・教育を行った上での判断でなければ不当とされる可能性があります。また、14日を超えて雇用が継続している場合は解雇予告も必要になります。
従業員の身元保証人に責任を問うことはできますか?
身元保証契約を結んでいれば、一定の場合に保証人に損害賠償を請求することが可能です。ただし、民法の規定により、契約期間は原則3年、最長で5年(自動更新は可)で、2020年の改正民法で、極度額(上限額)の設定が義務化され、設定されていない場合”無効”とされます。
また、労働者の状況に変化が生じ、身元保証人の責任に影響する可能性のあるときは、速やかに身元保証人に通知することが義務付けられました。
従前の損害が発生した場合の報告義務もあります。過失のない損害についてまで保証を求めることはできず、保証人の責任追及には慎重な対応が求められます。
パート社員にも社会保険に加入させる必要がありますか?
所定の要件(原則として所定労働時間が、正社員の週および月の所定労働時間の3/4以上)を満たす場合、パートやアルバイトでも社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務があります。また、常時51人以上を雇用する特定適用事業所の場合は、週の所定労働時間が20時間以上、賃金月額88,000円以上、雇用期間が2か月を超える見込みで、学生でないなどの条件に該当する場合が主な対象となります。加入対象者を除外していた場合、遡って保険料徴収・会社負担が発生するため、適正な管理が重要です。
労働時間を自己申告制にしているのですが、法的に問題はありますか?
自己申告制であっても、会社には労働時間の適正把握義務があります。厚生労働省のガイドラインでは、自己申告の正確性を確保するための措置(虚偽申告の防止、適正な運用確認など)が求められています。不適切な運用により未払い残業代が発生すれば、賃金請求や是正勧告のリスクが生じます。
就業規則を変更したいのですが、従業員の同意は必要ですか?
就業規則の変更は、労働条件の重要な変更(賃金、労働時間、休暇など)を伴う場合、合理的な内容であり、かつ労働者へ周知されている必要があります。労働基準監督署への届出の有無にかかわらず、変更にあたっては過半数代表者等からの意見聴取で足りますが、不利益変更の場合は、労働者の個別同意がないと無効とされることがあるため、慎重な運用が求められます。
従業員代表を選出するにはどのような手続きが必要ですか?
従業員代表は、労使協定の締結や就業規則変更時の意見聴取などに必要な存在です。選出は、全従業員の中から「使用者の意向に左右されない方法」で行う必要があります。具体的には、投票・挙手・持ち回りなどの方法がありますが、その方法と結果は記録に残し、必要に応じて提示できるようにしておくことが求められます。
社内でパワハラが発生した場合、会社はどのような責任を負いますか?
パワハラ防止措置は2020年6月施行の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」など法律上の義務であり、会社は事実調査や再発防止措置を講じなければなりません。また、雇用契約上の安全配慮義務違反を問われる可能性もあり、怠ると損害賠償請求や行政指導の対象となります。就業規則への記載、相談窓口の設置、社内教育など、予防体制の構築が求められます。加害者の懲戒処分も適切に行う必要があります。
社員のメンタル不調による休職への対応はどうすればいい?
休職制度が就業規則に規定されていれば、それに基づき対応します。診断書をもとに、休職の必要性や期間を判断し、定期的な連絡・復職支援の体制も整える必要があります。復職時には「職場復帰支援プラン」の策定や産業医面談も検討されるべきです。対応を怠ると、安全配慮義務違反とされる可能性があります。
勤務成績の悪い社員を降格させたいのですが、可能ですか?
降格(職位や賃金の引下げ)は、就業規則等にその根拠が明記されている場合に限り、合理的な理由に基づいて行うことが可能です。ただし、本人への説明と記録を残すこと、処分の妥当性(改善指導・評価記録など)を客観的に示すことが重要です。無理に行うと不利益取扱いとして無効と判断されることがあります。
社員からセクハラの相談がありました。会社としてどう対応すべき?
セクハラ対応は、企業の義務として男女雇用機会均等法により明確に定められています。まずは速やかに事実確認を行い、当事者双方から公平に事情を聴取する必要があります。その上で、被害者の保護(配置転換や休職)や加害者への処分(注意、懲戒など)を適切に実施します。また、再発防止策として研修や社内方針の明示が不可欠です。
なお、セクハラに限らずハラスメントに対してはパワハラ同様、安全配慮義務違反等が問われ損害賠償の対象となる可能性があります。
時間単位での年次有給休暇の取得は認めなければなりませんか?
時間単位の年次有給休暇制度は、導入が義務ではなく、会社が労使協定を締結した場合に限り可能です。法定年休のうち最大5日分(40時間)までを時間単位で取得できるという制度です。導入する際は、対象者・単位・利用可能時間帯などを明記した労使協定を結び、就業規則にも明記しておく必要があります。
業務委託契約や請負契約の相手が実質的に社員のように働いています。問題はありますか?
業務委託契約や請負契約であっても、実態として会社の指揮命令下で勤務していれば「労働者性」が認められ、労働関係法規が適用されます。これを「偽装請負」といい、労働基準法違反や派遣法違反として是正勧告や行政処分の対象になります。契約書の形式だけでなく、勤務実態(勤務時間、業務指示の有無、専属性など)に基づいて判断されるため、適切な契約管理が不可欠です。令和6年11月施行の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称「フリーランス法」)の施行に伴い、業務委託等であっても一定の要件に該当するフリーランスに対して、発注事業者にその育児介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等が義務付けらていますので、併せて注意が必要です。
労働者が会社のSNSアカウントで不適切投稿をした場合の対応は?
業務上のアカウントであれば、懲戒処分が検討されますが、その前に事実確認と本人の弁明機会を確保する必要があります。SNS利用規定の整備や研修を通じた周知が重要です。個人アカウントであっても会社の名誉を毀損する内容であれば、懲戒処分や損害賠償請求の可能性があります。
退職した社員が会社の顧客を奪って営業している場合、対応できますか?
在職中に知り得た顧客情報や営業機密を利用して独立・営業された場合、不正競争防止法や信義則違反に該当する可能性があります。ただし、退職後の競業行為を制限するには、就業規則や誓約書などに明示された「競業避止義務」規定が必要です。制限の内容は合理的かつ必要最小限でなければ無効とされる可能性があるため、規程整備や文書の作成においては法令等に則した対応が求められます。
社員が業務中に交通事故を起こした場合、会社の責任は?
業務中の事故であれば、会社が「使用者責任」(民法715条)を問われる可能性があります。また、業務災害として労災保険の対象にもなります。運転業務のある社員には安全教育や定期的な免許確認、体調管理の徹底が求められます。なお、事故時の損害を社員負担とすることは、仮に就業規則等において全額を社員負担と定めていても、事業の性格や業務内容、事故の状況などによる公平な分担の観点から、信義則上相当な範囲しか認められません。
退職勧奨をしたい社員がいます。どのように行えばよいですか?
退職勧奨は、あくまで本人の自由意思に基づく合意が前提です。圧力をかけたり執拗に迫る行為は違法となり、後に不当解雇やパワハラとみなされる恐れがあります。対象者との面談では記録を残し、説明内容や本人の反応も文書化しておくことが望まれます。退職条件(退職金の加算、再就職支援など)の提示も柔軟に検討しましょう。
無断欠勤が続いている社員を退職扱いにしてもよいですか?
無断欠勤が一定期間続いている場合でも、直ちに退職扱いにはできません。まずは本人と連絡を取り、欠勤の理由を確認する努力が必要です。その上で、就業規則に「○日以上無断欠勤した場合は自然退職」といった規定があれば、それに基づき手続きすることが可能です。判例等によれば、これらの対応によっても14日を経過した解雇を有効としているものがあります。ただ、安易な退職処理は不当解雇とされるリスクがあり、実際には慎重な対応が求められます。。
有期契約社員を契約満了で雇い止めする際に注意すべきことは?
契約更新を繰り返していた場合や、更新が期待されていたと判断される場合、雇い止めにも合理的理由が必要です。更新の有無や契約の終了予定を明確に伝えること、就業規則や雇用契約書で更新の有無を明記することが重要です。トラブルを防ぐためには文書での通知と説明が望まれます。
従業員を解雇したいと考えています。どのような手続きが必要ですか?
解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。就業規則に則った手続きを踏み、できる限り事前に本人に説明し改善の機会を与えることが求められます。また、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いも必要です。解雇が不当と判断された場合、無効となり賃金の支払い義務が継続するため、慎重な対応が求められます。
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